
最近、17,000,000桁を超えるこれまでで最大の素数が発見された。その上、この素数は、48番目のメルセンヌ素数(2のn乗-1で表せる素数)だという。
「これまでで最大の素数」を発見 « WIRED.jp
「それで、何の役に立つの?」 そう思った人も多いはず。膨大な時間と苦労をかけて発見された素数が、実生活においてどのように役立つのか。
結論を言うと、ただちに影響はない。暗号通信に利用される素数でも、たかだか数百桁程度のもので十分だからだ。
このような「何の役に立つかわからない」というところが、数学嫌いを増やす要因だと思う。
それはもったいない! 数学は役に立つし、おもしろい! それを教えてくれるのが本書『5分でたのしむ数学50話』
だ。数学にまつわる小話、実生活に密着した数学の話など、興味をひかれる話が50話収録されている。
数学嫌いでも、読めばきっと誰かに話したくなるはずだ。
余りの数だけ賞金プレゼント
- 好きな3桁の数を思い浮かべる。
- その数を2回並べて書く。(例:「185」なら「185185」)
- その6桁の数を7で割る。
- 7で割ったときの余りをコメント欄に記入する。
余りの数×1000円をあなたにプレゼントしたい。さてわたしは、一体いくら用意しておけばいいのだろう。
同じ誕生日の人が出会う確率
ある同窓会に23人のメンバーが集ったとする。そのなかで同じ誕生日の人がいる確率は何%か。そんな偶然があるかと思われるかもしれない。しかし、実際計算するとその確率は50%になる。
この確率はもちろん人数が多くなるほど高くなる。30人なら71%、40人なら89%になる。23人以上の人がいれば、むしろ同じ誕生日の人が見つからない可能性のほうが低いのだ。
この世でもっとも美しい公式
数学者の間で「もっとも美しい公式はどれか」という議論がおこなわれた。それで選ばれたものは『オイラーの公式』と呼ばれるものであり、式は次のようになる。

それぞれ違った領域の記号の間に、極めてシンプルな関係性があったことが示されている。
これはまるで、偶然東京で知り合った5人が実は同じ町出身だったというような奇跡にも近い発見である。
メルセンヌ素数は偶然か
冒頭の話、発見された素数がメルセンヌ素数だったのは偶然なのか。実は今、素数はメルセンヌ素数に限って探索されている。
新しい素数が発見されるとそれが正しいかどうか確認しなければならない。正攻法でいけばその素数を1つずつ割っていけばいいのだが、それには現状最高スペックのコンピュータを用いても数百年という膨大な時間がかかる。
一方メルセンヌ素数については、ルーカス・レーマー・テストという効率的な検証方法が確立されていて、確認の時間を大幅に短縮できると言われている。
そういった理由から、今回発見された素数はメルセンヌ素数だったのは必然だと思われる。そしてこれから見つかる(さらに大きい)素数もメルセンヌ素数になるだろう。
本の余白はもっと大きく
数学者を長年悩ませた問題の一つに『フェルマーの最終定理』がある。この問題は、「ピタゴラスの定理をもっと拡張して、この式の自乗を3乗、あるいはもっと大きな累乗になっても公式は成立するのか」というものである。
フェルマーは、それは不可能だろうという確信に至ったが、残念ながら彼は本の余白に次のようなそっけない注釈を書き込んだだけだった。
私はこのことを証明した。しかしそれを記すには、この余白は小さすぎる。
およそ300年後、イギリスの数学者アンドリュー・ワイルズによってこの問題は解決された。しかし、そこにはフェルマーが当時知るはずのなかった公式が用いられており、フェルマーが本当に証明できたかどうかは結局誰にもわからない。
あのとき本に十分な余白があれば、もしかしたら人類は300年前に1歩先を進めていたかもしれない。
数学は神の言語
かつてガリレオ・ガリレイは次のように語った。
自然という書物は数学の言葉で書かれている。
自然を理解するには数学が切っても切り離せない。現代ではコンピュータや暗号通信など、自然以外の分野にも数学は応用されている。
数式をひとつ証明することは、陸上選手が世界記録を目指すのと似ている。それは人間にとって未知の領域に踏み出すということだ。その証明が果たして生活の役に立つかはわからないが、誰も知らない世界を体験できることは、とても魅力的なことのように思える。
エアハルト ベーレンツ 岩波書店 2007-12-12